■はじめに
今回、質問で最も多い「耐用年数」について保護帽の構成部品の內、保護性能を発揮するために 最も重要な帽体についてのみ調査することとしました。
■調査の概要
目立った外傷のない場合での経年劣化について、各種材質の帽体につき屋外大気曝露による 経年劣化を調査し、その結果を基に「保護帽の経年劣化」について考察しました。
■屋外大気曝露した場所と期間
実際の使用条件に近く、且つ過酷な条件の下で経年劣化を調べることにしました。
海岸から約4 km入った小高い丘の南側傾斜面で、太陽光や風雨が何にも遮られずに直接当り、潮風の影響や排気ガスなどによる大気汚染については殆ど考慮しなくても良い場所です。紫外線 については都会地の10倍以上の強さです。試験期間は、5年間です。
■調査した帽体の材質と種類
下記の4種類の材質の帽体で、色は「黄色の標準色」で実施しました。
• ABS製……ABS樹脂 • PC製……ポリカーボネート樹脂
• FRP製……ポリエステル樹脂+ガラス繊維 • PE製……高密度ポリエチレン樹脂
■試験方法と経年劣化の考察
(1) 試験方法
厚生労働省「保護帽の規格」に基づく下記の試験を行いました。
・衝撃吸収試験
・対貫通試験
・耐電圧試験
※FRP製は帽体に穴を開けるため電気用保護帽ではないので、この試験は行なっていません。
(2) 各材料と経年劣化についての考察
・ABS製
ABSは耐候性に劣る材料であることはよく知られています。屋外曝露1年後で、帽体表面の色(色差)に早くも劣化の兆候が現れ、耐衝撃吸収性能試験において3年経過後のものでも破壊しました。
一般に、ABSは耐候性を高めるために紫外線吸収剤を混ぜていますが、屋外で長時間の使用においては変色や特定の物性値の低下を招きます。
ABSは、特に耐候性に弱く、屋外で使用される機会も多いことから、3年以内の交換を推奨いたします。
・PC
5年経過後に対衝撃吸収性能試験で破壊が生じましたが、5年経過後の平均分子量を測定した ところ新品時の約80%程度とまで落ちていました。
PCはABSより比較的耐候性に優れた樹脂ですが、有機溶剤など幾つかの使用環境での劣化要因があり、劣化の程度に大きな差があることを考慮する必要があります。
従って、平均分子量が経年劣化で落ちること、更に使用環境等の複合作用で劣化が加速することなどを考え合わせますと、3年以内の交換を推奨いたします。
・FRP製
保護帽としての保護性能上の大きな変化はありませんでした。ただし、帽体の色は徐々に変化し、4年を過ぎると外観の変化(色差など)が顕著になっています。長期間の屋外曝露でポリエステル榭脂が痩せ、帽体表面にガラス繊維が露出してくるためです。
実際の作業環境では、露出したガラス繊維が外的要因により傷む事が想定されます。
試験結果で、5年目までは安定した性能を示していますが、5年以内の交換を推奨いたします。
・PE製
対衝撃吸収性能試験で、4年経過後から錤掛け(帽体の鎮部が衝撃により欠損する)が発生しました。これは、屋外曝露による劣化がもたらしたもので「PEは紫外線や炎熱に弱い」という特性が明確に現れたものです。
以上の事から、使用環境と劣化因子の複合作用で劣化が加速することも考え、3年以内の交換を推奨いたします。
《参考》内装
調査の都合上、あえて対象から外していますが、性能維持という観点からは重要なのが内装部材です。
保護帽は、全ての構成要素が上手く組み合わさって、初めて保護性能を発揮します。その中のひとつでも性能が落ちていると、十分な保護性能が発揮できなくなります。
内装は直に人体に触れるので、清潔を保つためにも「汚れが目立つようになったら交換の時期」と考えていただきたいものです。汗や油などで滑りやすくなっていると、保護帽の役割を果たせないことがあります。又、あご紐の縫い目がほつれていたり、あご紐が損傷している場合は速や かに交換してください。
内装は機会があるたびに点検し、1年毎に交換することを推奨いたします。
■まとめ
以上、屋外曝露試験の結果に基づいて「保護帽の経年劣化」について述べました。安全に作業し ていただく上で、保護帽の交換時期を考えられる一助になれば幸いに存じます。
紫外線劣化については、屋外曝露試験で一応の検証が出来ました。しかし、全ての材質に共通することですが、炎天下の酷暑(コクシヨ)、屋内作業環境で遭遇する熱、薬品・大気汚染ガスが溶け込んだ雨水、汗・整髪料の類の影響など、保護帽を劣化すると考えられる要因は、まだたくさんあります。
他方、著しい外観上の傷跡は、衝撃や摩擦などを受けたなどの機械的要因(日ごろの取扱による ものも含む)による劣化の現れであり、危険の前兆でもあります。そのときは「問題ないJと思えても、それを続けて使用することで「目に見えない形」で劣化が進行し、急激に保護性能を発揮できなくなることが想定されます。著しく傷がついた保護帽はもちろんのこと、早め早めの交換をお奨めいたします。